2021年01月20日

『アスペルガー症候群との上手なつきあい方入門』

『アスペルガー症候群との上手なつきあい方入門』 
【西脇俊二 イラスト アベナオミ 宝島SUGOI文庫 2017年4月第1刷 600円+税】

1 はじめに
「アスペルガー症候群」って聞いたことありますよね。ハンス・アスペルガーさん(1906〜1980)の名前からとられた呼び名で発達障害の一種。本書によると発達障害とは、〈脳の機能のかたよりが引き起こす障がいのこと〉で〈主に先天的なものが原因であると考えられて〉いるとのことです。アスペルガー症候群は心の病気と誤解する人や、「障がいを持った人」と認識されがちですが、精神科医である著者は違うと言います。著者は〈実際は、発達障がいの人とその周りの人とのお互いの認識のずれが、障がいとなっているということを知ってほしい〉と強調されます(126頁)。 本書はコミックエッセイ、イラストは本質をうまく突いたなかなかのもの。 さて、印象深かったところは?

2 アスペルガー症候群の特性〈43〜44頁〉
西脇さんによれば、イギリスの精神科医ローナ・ウイングはアスペルガー症候群の特性を「三つの項目」で分析しているとします。どんな項目なのか早速紹介したいと思います。
【社会性が乏しい】(→枠にとらわれず、自由な発想ができる。実行力がある。他人の意見に流されない。)【コミュニケーションが苦手】(→いつでも正直。好きな分野のことは深く掘り下げる。独特の感性がある。)【想像することが難しい】(→単純作業が苦ではない。集中力がある。一つのことに対して、正確さにこだわる。)  【・・・】が三つの項目。(→・・・)は見方を変えればこうも言える、だから特性を生かそう、という西脇さんのコメントだと思います。

3 「脳の機能のかたより」とは?
(1) 「はじめに」で紹介しましたがアスペルガー症候群は“先天的なもの”が原因のようです。だから、そこにみられる「特性」も先天的なもの。本人は「自分はどうも周りの人と違う」とは思えても、その「特性」は彼にとって自然なものです。つまり、彼はそれ以外を知らない。これが「脳機能のかたより」の意味内容をなすと思います。
(2) そこから重要な結論が導かれます。抽象的にいっても彼は理解できないということ。例えば、「じゃあ、この次はあそこで待ってるね。」と言われても彼は混乱する。コミュニケーション上によくある指示代名詞やあいまいな言葉(言い回し)を理解するのが不得手。「部屋をきちんとして」と言われて、何をどうしたらいいかわからず、模様替えをしてしまったというケースもあったとのことです(64頁)。
(3) こうした混乱や間違いは彼にとって辛いものです。「心がけ」や「努力」の問題と誤解され、その挙句精神的に不安定になる。二次障害としてうつや統合失調症を引き起こすこともある。本書はこうしたことを防止するための具体策が詳細に示されます。そして、「特性」が生かされる方向を模索します。

4 こんな上司、アスペルガー(症候群)?
本書のテーマは新卒のサラリーマンがアスペルガーだった場合。では、もうひとつ、上司とか上役のような場合はどう考えたら良いの? パワハラをする上司も、「人間、人の気持ちが解らなければだめだ!」と総論ではまともなことを言うじゃないですか。しかし、各論がダメ。では、各論ダメ上司って、アスペルガー? それとも人としての成熟度が足りないの?  難しいですよね。私はアスペルガーの要素を否定できないと思う。しかし、基本は、「人としての成熟度」の問題だと思います。上司ともなれば新卒とは違って相応の社会的経験があり訓練も受けてきたはず。10あったアスペルガーの特性も陶冶されて2になり1になっていなければならない。それが10や9・8のままであったとしたら、やはり、努力不足、人としての成熟度が足りないと思う。 さて、こうした上司、皆さんはどう分析されますか。

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2020年12月16日

『人口減少社会の未来学』

『人口減少社会の未来学』 【内田 樹編 2018年4月第1刷7月第4刷 1600円+税】

1 はじめに
これからおとずれるであろう人口減少社会の未来像を考察したものです。日本が中心に論じられますがそれには限られない。また、本書は「人口減少社会」が困ったものだとか悪いものだとかいう前提に立たない。人口減少社会を迎えて、私たちが幸せに、内田樹さん流に言えば機嫌よく暮らすためには、今の社会をどのように手直ししていったら良いのか、そんなことが書かれた本です。そうした考察は到底一人ではできない。本書における多彩な顔触れを先ず紹介。 内田さん、68歳のときの刊行。

2 生物学者から地域エコノミストまで。
池田清彦(生物学者) 井上智洋(経済学者) 内田樹(思想家) 小田嶋隆(コラムニスト) 姜尚中(政治学者) 隈研吾(建築家) 高橋博之(『東北食べる通信』編集長) 平川克美(実業家・文筆家) 平田オリザ(劇作家・演出家) ブレイディみかこ(保育士・コラムニスト) 藻谷浩介(地域エコノミスト)
筆者のそれぞれの論考が<俗説を排し>かつ<穿った>もの。「目から鱗」どころではではありません。世の中には本当に頭のいい人がいるなぁ。ということで全員を取り上げられないのが真に残念。

3 平田オリザさん(198頁〜)
平田さんは、“地方と若者”の問題を“文化”の視点からとらえます。論考の表題は『若い女性に好まれない自治体は滅びる』 サブタイトルはー「文化による社会包摂」のすすめーです。 
(1) さて、人口減少社会に向けての手直しの一つに、若者を地方に戻すことがある。平田さんはこれを「文化的厚み」の視点からとらえる。「文化的厚み」とは何か。それはおそらく“ゆったり”“のびのび”“おしゃれ”といった[気分の良さ]ではないか。そうしたものは、「医療費無料化」(←これも大切) にはないものです。これまで自治体は、若者に対して、「来る理由」を考えたが「来ない理由」を考えなかったとの指摘がなされる(215頁)。考えてみれば当たり前のことですよね。田舎には豊かな自然がある、「でもね」というのが普通の思考だから。例えば、「でもね、村のお付き合いが大変みたいよ」とか、「でもね、お茶するところもないんだよ」とか、「でもね、子供の教育が心配なんだ」という具合。平田さんはこの問題を「文化による社会包摂」から考える。示唆に富み極めて現実にフィットした論考です。
(2) 具体例として、先進的な自治体が紹介されます。岡山県奈義町と兵庫県豊岡市。文中から紹介。<奈義町は昨年(2017年)、現代美術館の隣に、窯焼きピザが売りのイタリアンレストランを誘致した。6000人の山間の町で、昼間から店の前には行列ができている。顧客の八割は女性である。> <豊岡市では、「まちづくりと自己決定能力は車の両輪」といっている。[・・・]どんなに素晴らしい街を創っても、自己決定能力がなければ若者たちは東京になんとなく吸い寄せられていく。自己決定能力をつけても、街自体に魅力がなければ、若者たちは戻ってこない。二つが両輪とならなければ、人口減少は止まらない。> こうした自治体は今後も増え続けるに違いないとの感想を持ちました。

4 小田嶋 隆さん(246頁〜)
論考のタイトルは『少子化をめぐる世論の背景にある「経営者目線」』 というもの。ここで教えられたのは「人口動態の予測グラフ」なるものの本質。どれも「恐怖の」右肩下がりで、大変な「リスク」が待ち受けているように思わせます。しかし、問題は誰にとって「恐怖」であり「リスク」かです。次に問題なのは、これらグラフには「このままの状態で推移すれば」という但し書きがつく。然し、そうした「推移」はあり得ないですよね。何故なら、論理的には、<その「人口滅後の社会」という条件が、その時点での新しい前提になる」>訳だし、現実に2008年以降の12年間を見ても、リーマンショック・東日本大震災・新型コロナと激動激変です。小田嶋さんのこの二つ指摘は非常に大切と思ったので最後に取り上げた次第です。 

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2020年11月02日

『薬物依存症』【松本俊彦 ちくま新書 2018年9月10日第1刷 980円+税】      

『薬物依存症』

【松本俊彦 ちくま新書 2018年9月10日第1刷 980円+税】
      
1 はじめに著者(1967年生)は「国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部  部長兼薬物依存症治療センターセンター長」の職にある方です。恐ろしく長い職名ですが要は国立の薬物依存治療センターのドクターです。この方と本書を知ったのは2020年5月23日付けの朝日新聞別刷り「be」でした。さて本書購入の動機です。私の弁護士歴は30年、おそらく200人は下らない覚醒剤使用の被告人を弁護しているはずです。問題はそれほど弁護しているのに(自分は)被告が“立ち直った状態を正しくイメージ出来ていたのか”ということ。更に言うならそもそも被告人が“立ち直った状態”って一体何なんだ、本書を読んだら分かるかもしれない。これがこの本を求めた動機です。

2 薬物依存症の本質は「精神依存」著者は薬物依存症の本質を「身体依存」が成立した状態とするのは正しくないとします。何故なら身体依存には可逆性がある。つまり元に戻りうるわけですね。それならば依存症者を病院なり刑務所に一定期間入れておけば良いわけです。しかし、例えば覚醒剤依存の場合、現実は全く違うわけです。著者は〈中枢神経系に作用する薬物に常習性があるのは、最終的にはそれらが脳内にある、快感の中枢ともいうべき部位をダイレクトに刺激するから〉(43頁)だとします。この刺激によってドーパミンが活性化される、ざっくり云えば快感を学習してしまう。そうなると次に薬物を使う機会が待ち遠しくなる。薬物のことがしっかりインプットされそうした体質変化が起こる。著者はこの体質変化の状態が「精神依存」と呼ばれるものであり、〈この精神依存こそ薬物依存の本質〉(47頁)だというのです。

3 「治らないが回復できる病気」   本書から得た最大の収穫でした。著者は〈「目の前に薬物を出されても何も感じない」体質を取り戻すことが「治る」という意味ならば、確かに薬物依存症は治らないということに〉なる(146頁)。そして続けて、〈しかし、薬物をやめ続けていれば、薬物によって失ったもの―健康や財産、大切な人との関係性、社会からの信頼などーを少しずつ取り戻すことは可能〉と言います。すなわち回復です。著者は世の中には「治らないが回復できる病気」はたくさんありその代表例が糖尿病だとします(←ナント分かりやすい)。私はいま覚醒剤使用前科4犯の被告人の弁護を担当していますが、さっそく被告人のパートナーに本書をすすめ、被告人にも一冊差し入れてくれるようにお願いしました。遅まきながら私は本書から被告人が立ち直った状態と云うものを初めてイメージできました。

4 薬物依存症の真の原因とは?
(1)  著者は言います。〈私はかねてより、薬物依存症とは「孤立の病」であると考えてきました。つまり、孤立している人が「つながり」を求めた結果、かえって孤立を深めてしまうという、実に皮肉な病気です。〉(もう少し高尚な言い回しをすれば)〈「痛みは人を孤立させ、孤立は薬物を吸い寄せる、そして、薬物はその人をますます孤立させるのだ」〉(20頁)と。
(2)  著者が繰り返していう言葉に〈依存症から回復するためには、世界で少なくとも一箇所は、正直に「クスリをやりたい/やってしまった/やめられない」といえる場所が必要(だ)〉があります。嘘や秘密はその人を孤立させるからです。既にある専門医は「クスリをやっちゃっても言ってね。誰にも言わないから。やってもここ(病院)に来てね」と患者に行っています。(↑現在、担当する被告人から聞きました。)
(3) さて、痛みを理解できるのは「人間」です。孤立させないのも「人間」です。薬物依存症からの回復には「人間」が必要なのです。この本はそれを教えてくれました。本書は著者の人間性にも触れることのできる一冊です。優しさは物事を前進させる。ぜひお読みください。end
『薬物依存症』の写真.JPG
posted by たっちゃん at 15:59| Comment(0) | 日記